「チョコレートを扱うのなんて、どれくらいぶりのことだか」

それは『初めてではない』という意味ではあるものの、自分の手つきはほぼ初心者のそれだった。チョコレート菓子を作るのなら、やはり寒い季節の方がいい。だがこの店の気温は常に一定だ。気にしなくてもよかったかもしれない。ただ、アネモネに見つかると厄介だ。彼女が帰ってこないうちに――

いくつかの種類のチョコレートを湯煎する準備をして、温度計を手に数字を気にしながらそれぞれに生クリームを加えていく。そういった手順さえ間違えなければ、難しいことはない。ない、けれど。

これを逃すと、あの人に感謝の気持ちを伝えるきっかけが中々無いのだ。春の訪れる足音が聞こえ始める今ぐらい、ちょうどこの世界にもそういうイベントがあることぐらいは知っている。この世界においては伝統的な祝日らしい。だからオーソドックスに、無難に。そう、気取りすぎてはいけない。 それに外装を選ぶのも嫌いじゃない。特殊な紙や美しい貼り箱で飾れば、それっぽくもなるだろう。ただ、けれど。

出来上がった一つを口に運ぶ。これは、上手とは言い難い。食べられないほど酷くはないが、初心者の作った初心者なりのものだ。これで、感謝を伝えられるかどうか。そう思案していたときだった。

「ただいま……? あら、良い香り、甘い香り!」 「……アネモネ、帰宅が早くありませんか」 「そんなことないわよ? ねえマスター、何か作ってたの? ジャムじゃないみたいね、何かしら、ねえ何かしら?」 「無視して下さい」

まだ日はある。もう一度頃合いを見てやり直そう。 ――あの人がいる場所は、ここのように四季のない喫茶店ではない。雪がちらつく日もあるだろうか。あたたかくして過ごしていれば良いのだけれど。


うぉんさんリハビリ課題【3】 条件:「春の訪れ」「四季」「チョコ」

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