外は時間を忘れることが容易な白の世界。そんな世界の片隅に建つ静かな喫茶店の厨房で、フードとアネモネが何かを作ろうとしているようです。この二人が作るものといえば、アレしかありません。

「ジャムを作るにはねっ、下準備がとっても大事なのよ!」 「それ、すごくよくわかる。下準備なしのジャム作りをしてうまくいったことがないんだもの」

二人ともエプロンをつけて、準備万端といった具合ですが、今日はまだ下準備段階。ジャムの完成までには長い道のりがあるようです。

キッチンの中でアネモネがぽんと手を合わせ、フードのことを見上げます。

「じゃあ基本のきの字のジャム、作りましょうか。その下準備から」 「それなら先に、瓶の煮沸かな!」

フードのそんな言葉を聞き、あっ、とアネモネは小さく声を上げてぴたりと止まります。申し訳なさそうな顔をしています。

「私ね、水が駄目なの。多少なら大丈夫なのだけど」 「なーんだ、そんなこと! アタシちゃんに任せてー! 道具借りちゃうわね!」

二対の腕を自慢げに振り、フードは器用にキッチンの中で支度を進めます。

「大きめの鍋でお湯を作って、瓶と蓋を煮込むだけ。つまんない作業かもしれないけど、アタシちゃんは好きだわ」 「なにか理由があるのかしら」

作業の様子を背伸びして覗き込みながら、アネモネは尋ねます。にっこり笑いながらフードは、天を指差しあれやこれやと想像を巡らせながら言いました。

「ふふ、どんなジャム入れようかなあとか、どんなラベル貼ったりリボン結んだりしようかなあとか、楽しみがこれから沢山あるじゃない? そういうところかな!」 「素敵だわ」

アネモネも嬉しそうに言いました。 コンロの火をつけて、鍋に沈めた瓶や蓋をフードは大きな瞳で見つめます。

「あ、水が駄目なら離れてて頂戴ね。すごく熱いし!」 「お気遣い嬉しいわ、じゃあお言葉に甘えて少し離れたところから。そうねえ、それなら私はイチゴの下処理、先に始めましょうか」

籠の中のたくさんのフルーツ――それは街で仕入れてきた新鮮なイチゴです。これをジャムにするためにも、やらねばならないことが沢山あります。

「洗った後の水気をよく切って、へたの処理をして……あらこれ、ジャムにするにはちょっと粒が大きいかしら」 「あ、切ったほうがいいかもしれないね! 包丁はOK?」 「大丈夫だわ。ありがとう!」

防水の手袋をつけて、アネモネはイチゴ一粒一粒を丁寧に確認していき、大きいものは、フードが手渡してくれた包丁――といってもそれは小さな果物ナイフなので、アネモネの人形の身体でも握ることができるのです――で小さく切っていくのでした。

コンロの前でぐらぐらとしている大鍋を見つめ、わざとふふふふ、と悪い笑みを浮かべるフードの様子に、はしゃぐように笑うアネモネは、普段ならつまらないとふてくされるその作業も、苦に感じず出来ているようです。

大鍋から瓶を注意して引き上げ、清潔な布巾の上に置いて乾かします。一連の作業が終わったフードは、アネモネの作業を手伝いに入りました。この作業が終わったら、イチゴの詰まったボウルの中には追加で入れるものがあります。

「アタシちゃんはねー、じゃーん。とっておきのフルーツシュガー持ってきちゃった! これ使って作るジャム、美味しいの!」 「フルーツシュガー……すごい、そんなものがあるのね」 「えへへ、アネモネちゃんなら知ってるものとばかり。これと混ぜ合わせて、しばらくイチゴから水分を抜く! 美味しいジャムになーれ!」

どざっと、勢い良く、沢山の砂糖を贅沢にイチゴにまぶします。二人とも、砂糖の量が足りないとジャムの形にならないことをよく知っています。ですから惜しみなく、沢山の砂糖を入れます。サクサクと小気味良い音を立てながら混ぜ合わせていきました。